歴史と美術 - History and Art

日本の歴史について書かれた書物は数多く存在しますが、言うまでも無く、それらが常に真実を語っているとは限りません。歴史の真実を知るには、絵画、彫刻、版画といった美術と向き合う必要があります。つまり、市井の人達こそ国で実際に何が起きたのかを知っており、彼らは自らの作品にそれを表現したという事です。

根付けの彫刻、絵画や木版画に描かれた異人達がまとった奇妙な服装や所作の中に、昔の日本人の異人観を垣間見ることが出来ます。御上というものは概して、その内容の如何に関わらず外国人や彼らの持つ思想を警戒するものですが、民衆は異国からの訪問者によって持ち込まれた品々や文明との出会いを望んでいたのです。

一八五三年、コモドア・マシュー・ペリー提督率いるアメリカ艦隊による浦賀への来襲を号令に、日本は変革の時代に突入して行きます。技術の波が外国から押し寄せ、ペリー来襲から間もなく始まった明治維新によって、日本は国際社会において列強の一角としての地位を獲得して行きます。

その気性の激しさから「極東の西部」と呼ばれた横浜では、外国からの訪門者達は、好奇心を掻き立てられる絵の題材ではあっても、敵と見なされることはなく、人々は異人達と共に海を渡って来た外国の文明に魅了されました。木版画の絵師、彫り師、刷り師、版元といった人達は、当時の真の歴史家と言っても過言ではありません。

芸術は民族の精神の真髄を映し出すということを認識すべきです。私が日本を愛して止まない理由の一つもここにあるのです。日本は、優れた芸術と習慣を通して、その真の感性と文化と心を感じる事の出来る国なのです。