灯篭流し - Toro Nagashi (Setting Lanterns Adrift)

灯篭流し

八月十六日の夕方、灯ろう流しを見に宍道湖へ出掛けました。お盆の終わりを告げるこのお祭りは、大変長い歴史を持っています。灯籠は、年に一度の里帰りを終え、霊魂の世界へ戻って行く祖先達の霊を見送るために流されます。私は静かに瞑想したかったので一人で出掛けました。お陰で誰にも邪魔されずに、始めから終わりまで見ることが出来ましたが、それはまさに魂を揺さぶられる体験でした。

今年の灯篭流しはこれまでに見たどれよりも良かったです。天候は申し分無く、西からは気持ちの良いそよ風が吹いていました。その夜は涼しく、さざ波が灯篭のことを気遣いながら流れていました。大橋や宍道湖大橋から無数の灯篭の扇がゆらめきながら広がって行く様は、さながら銀杏の葉の様で極めて美しいものでした。 澱みなく続く僧の読経もとても深い感銘を私に与えてくれました。肉親を失くした沢山の人が、故人の幸福を願って祈り、祈りの紙を燃やしていました。

私はこの光景にとても穏やかな気持ちになり、親戚の人達の霊に来年までのしばしのお別れを告げました。そして花火が打ち上げられ、年に一度の祭は終わりを迎えました。私には宍道湖を下って行く灯篭が、松江を去り難く感じている様に思われました。その気持ちはとてもよく分かります。しかし、中には素早く遠ざかって行くごくわずかな灯篭も見受けられました。彼らは子孫のもてなしに満足しなかったのでしょうか。そう考えると少し悲しくなりました。

最後の灯籠が見えなくなるのを確かめて、帰途に着きました。何から何まで申し分無かった今年の灯篭流しは私の心にいつまでも残ることと思います。日本の全ての街に、精霊を乗せた灯籠を見送ることが出来る宍道湖の様な美しい場所があればと思わずにいられません。