黄泉の国からの脱出 - The Escape From Hades

黄泉の国からの脱出

伊耶那美を連れ戻そうと黄泉の国を訪れた伊耶那岐が、伊耶那美から「しばらくお待ちください、私を見てはなりません」と言われたところから物語は続きます。 伊耶那岐はこれに同意しますが、「しばらくの間」のはずがとてつもなく長い時間になってしまい、徐々に待ちきれなくなってきた伊耶那岐は、髪の毛の右側のまげにさしていた竹のくしの端の歯を取るとそれに火を燈して明かりにし、黄泉の国に入っていきます。伊耶那岐が出くわしたのは、伊耶那美の腐敗しかけた体の上に八人の雷神が腰掛けているという光景でした。伊耶那岐は恐れをなします。

伊耶那岐を目にした伊耶那美は「私がこのようなひどい目に会っているところを見てしまいましたね。あなたは私を辱しめたのです。ここから出すわけにはまいりません」と叫びました。これを聞いた伊耶那岐は伊耶那美から逃げ出します。伊耶那美は黄泉の国の鬼婆たちに伊耶那岐の後を追わせますが、その早いこと早いこと!。伊耶那岐は懸命に逃げながら頭飾りからブドウのつるを取り出しそれを放り投げました。つるはたちまちブドウとなり鬼婆たちはそれを食べるために立ち止まりました。

伊耶那岐は走り続けましたが、鬼婆たちはすぐにまた迫ってきました。次に伊耶那岐は左のまげから竹のくしを取り出しそれを割って投げ捨てました。するとまたたく間に竹の子が地面から生え始め、鬼婆たちはそれを口にするために立ち止まりました。これに怒った伊耶那美は、八人の雷神と千五百人の黄泉の国の勇者たちを遣わしますが、伊耶那岐は走りながらも剣を手に、追ってきた者どもと一戦を交えます。

伊耶那岐は三つの桃の美がなる1本の木を見つけました。そして、それを敵に向けて投げつけたところ、敵は退散していきました。 とうとう伊耶那美自らが追ってきました。もう少しで黄泉の国の門にたどり着くというところで、伊耶那岐は伊耶那美に捕まりそうになります。すかさず伊耶那岐は巨大な岩を門のところに置き、二人は岩の両側で対峙する格好となりました。伊耶那岐は言います「愛しき妻よ、そなたとは縁を切ることにしよう」。それに対し伊耶那美も「愛しき夫よ、もしそのようなことをなさるのなら、私は毎日あなたの家来を千人絞め殺しましょう」と切り返します。伊耶那岐は「愛しき妻よ、それならわしは毎日千五百人の子供生ませよう」と言ったのです。そして、これが人間の生と死の始まりであるといわれています。

この出来事に関連した物語は多数存在します。その中の一つが「出雲の国」と古事記、日本紀の中に見られます。伝説の内容がそれぞれ異なっているのは、天皇が風土記作成の準備に入るよう指示なさった際に、大和と関係のある七つの国によって伝説に異なる色づけがなされたことが理由です。

古事記と日本紀は、風土記よりも早い時期に編纂されました。風土記は713年、時の天皇の命により編纂が始まりましたが、出雲国風土記が完成を見たのは733年でした。これは2巻から成っており、1冊は著者の出雲の広島の元に保管されました。古代、大和の国の人々は杵築を出雲の国と呼びましたが、彼の名はそこから来たものと思われます。