伝説の中のくし - The Comb in Legend

くしに関するテーマを続けるうえで、今一度伝説に触れておきましょう。 最初は東出雲を舞台とした、その死後“黄泉の国”へと旅立った伊耶那美にまつわる物語です。

妻を亡くしたいそう寂しい思いをしていた伊耶那岐は、伊耶那美を探し出すため黄泉の国へと向かいます。そこで伊耶那岐は、黄泉の国を離れてもよいかどうか天の支配者と話し合わねばならぬためしばらくの間待っているよう伊耶那美から言われます。また伊耶那美は耶那岐に、待っている間自分を見てはならぬとも申し付けました。“しばらくの間”はとても長くなり、しびれを切らした伊耶那岐は門をくぐって中へと入っていきます。

中は暗くてよく見えません。伊耶那岐は自分の髪の左のまき毛から竹のくしを取り出し灯りをともします。彼が目にしたのは、腐敗しかかった伊耶那美の体の上に幾人もの雷神たちが腰を下ろしている樣でした。恐ろしくなった伊耶那岐は逃げ出します。“黄泉の国の鬼婆”たちが追ってくると、伊耶那岐は右のまき毛からくしを取り出し投げ捨てました。するとたちまち竹の子が生え鬼婆たちはそれを食らうべく立ち止まってしまいました。髪の中からブドウのつるを取り出し同じことをし難を逃れた伊耶那岐は、遂には黄泉の国から抜け出します。

この物語では、2本のくしが使われています。中に出てくるまき毛は、しばしば語られその古代出雲地方の住人たちの像で目にする彼らの結っていた髪型です。出雲大社にはそうした像のうちの2体が置かれています。1体は大国主命と因幡の白うさぎの像です。 そしてもう1体が“国譲り”の伝説にまつわる像です。これは大国主が、天照が日本の統治者として指名した者に自分の土地を譲り渡すことを合意した、という物語です。

私はその内容に首肯することはできませんが、これは出雲大社建立の経緯を物語っています。8世紀に建てられたこの大きな社は、数多くの行事が継続するのに一役買っているのです。