天皇の系譜とくし - The Emperor's Line and Combs

天皇の系譜と関連した伝説で、くしが登場するものが少なくともあと一つあります。“無くした釣り針”の物語がそれです。山幸彦は魔法の杖を、兄の海幸彦は魔法の釣り針を持っていたのですが、山幸彦は兄の釣り針を試してみたくて仕方がありません。山幸彦は、しばらくの間釣り針を自分の杖と取り替えてはくれぬか、と海幸彦に懇願します。兄はとうとう弟に屈し釣り針を貸してやることにしました。その釣り針で釣りをしていた山幸彦でしたが、釣り針を無くしてしまいます。

山幸彦は悲しくなりましたが、兄にそのことを打ち明けました。海幸彦はたいそう怒り釣り針を返すように言います。山幸彦は代わりに自分の剣で釣り針を作りますが、海幸彦は気に入らず依然無くした釣り針を持ってくるよう言います。そこで、山幸彦は兄の釣り針を見つけるべく、海の王国に行くことを決意します。海の王国にたどり着いた山幸彦は、海神(わたつみ)の美しい娘・トヨタマヒメに出会い、姫を嫁にもらいました。二人は3年の間そこで幸せに暮らしますが、山幸彦は戻らねばならぬ、との結論に達します。

海神は山幸彦に彼が無くした釣り針を手渡します。海神は釣り針を赤ダイから受け取っていたのです(別の説では、他の種類の魚が拾ったものの、釣り針を返すことを拒んだため、この魚は二度と天皇に献上されることはなかったとあります。実はこの魚とはボラだったのですが、いずれにせよさほど良い味ではありません)海神はさらに潮の干満を操ることのできる二つの装身具・潮満つの玉(しおみつのたま)と潮干る玉(しおひるのたま)を山幸彦に授けました。海神は、これを使えばどんな言い争いにおいても兄を負かすことができる、と言います。

戻った山幸彦は、魔法の宝石の力を借りてたちまち兄を思うままに動かすようになります。兄は自らも、そしてこれから80の代にわたる自らの子孫も山幸彦に仕えることを約束します。そして、その行いは今日も続いているのです。後日、山幸彦の妻のトヨタマヒメが彼の元へやってました。姫は山幸彦に言います。自分は今身ごもっておるが子を産む間は本当の姿に戻らねばならぬ。しかし決してそれを見てはならぬ、と。そう言うと妻は小屋に入り中で赤ん坊を産み落としました。山幸彦は好奇心に駆られ自分の妻を見るため竹のくしを取り出しそれに火を灯します。彼が目にしたのは、8尋(ひろ、約48フィート)はあろうかというワニでした(姫は竜になったという説も存在します)

山幸彦は恐ろしくなり逃げ出します。夫が自分を見てしまったことに気付いた彼女は腹を立てて父親である海神の元へ帰ってしまいました。息子が愛しいトヨタマヒメは息子の世話をさせるべく妹のタマヨリビメを遣わします。さらに、姫は金輪際人間と海原が歩み寄ることはないであろうとの言葉を残しました。山幸彦の息子・ウガヤフキアエズノミコトは妻の妹を嫁にもらいました。つまり彼は自分のおばさんにあたる女性と一緒になったのです。二人は四人の子供を設けますが、そのうちの一人・ワカミケヌノミコトは日本の初代天皇、神武でした。後の3人は亡くなってしまいます。

このような古代の伝説は天皇の系譜にたいへんな重きを置いています。そして、たとえばくしなどのように、述べられているものすべてに重要性を見出しています。古事記には、このような物語は各々の伝説につきわずか一つしか収められていませんが、日本紀においては数多く見受けられます。これは、こうした物語の多くは7世紀に編纂され日本を形作った七つの風土記で語られていることによります。

これら風土記やお世継ぎに関する天皇の考え方と相容れない伝説は破棄されてしまいました。たいへん残念なことですが済んでしまったことです。私たちは真相を突き止めるべくさまざまな種類の本をできるだけ多く読まなくてはなりません。そして、各地方が天皇の位が受け継がれていく中で果たした特定役割のみを脚色した伝説は排除しなくてはなりません。そうではなく、すべての地方の果たしたすべての役割を取り上げて一つにまとめるのです。それによってこのすばらしい国において過去に起きた出来事の真相について包括的な見解を持つに至ると思うのです。